AIと外観検査— 期待と現実のあいだにある課題 — 

著者
笹井昌年
創業者 & エンジニア
株式会社メガトレード

Insights #001 Rev.01
発行: 2026-02-23

1. 期待が先行するとき

AIは非常に強力な技術です。

その成功事例に日々触れていると、いつしかAIは何でもできるのではないかと思えてきます。

しかし実際には、AIが力を発揮できる問題設定と、そうでない問題設定があります。

万能であるかのような期待が先行すると、本来重視すべき前提が後景に退いてしまいます。

外観検査において基盤となるのは、画像取得そのものの品質と計測精度です。

外観検査は、画像情報を用いた計測技術の一つです。

まず計測として成立させ、その上で判定を行う。この順序が重要です。

しかし、AIが難しい課題を一気に解決してくれるのではないかという期待のもと、十分に見えていない画像や、OKとNGの境界が明確でない状態のまま、判定だけをAIに委ねようとする場面も少なくありません。AIの活用は重要です。

しかし、力点を置くべき基盤まで曖昧にしてしまっては、本来の目的を見失います。

2. 高次元最適化という理論的特性

現在のAIは、主にニューラルネットワークに基づいています。

ニューラルネットワークは人間の神経構造を模した仕組みですが、画像は本質的に非常に高次元のデータです。

例えば500万画素の画像は、理論的には500万次元の空間として扱うことができます。

このような高次元空間の中で、良品領域と不良品領域の境界を構成することは統計的には可能です。しかしその最適化過程では、局所最適解(ローカルミニマム)に収束するという性質を避けることはできません。

現在の学習アルゴリズムは、真の最適解を保証するものではなく、最適に近い解を探索する仕組みです。

これはAIの欠陥というよりも、高次元最適化問題が持つ理論的特性に起因するものです。

そのため、学習データの範囲を超える入力に対して、予期しない判定を示す可能性があります。

人間は、曖昧な画像やノイズを含む画像からでも意味を読み取ることができます。しかしAIは、高次元空間の中で定義された境界に基づいて分類を行います。


その境界を完全に保証することが難しいという点が、再現性と保証が求められる外観検査の分野において、慎重な設計を必要とする理由の一つです。

3. 外観検査という分野の特性

AIを外観検査に取り入れる際には、まず外観検査という分野の特性を理解する必要があります。

外観検査では、単にOK/NGの結果を出すこと以上に、「なぜその判定に至ったのか」を説明できることが重要です。

検査は単なる分類ではなく、品質保証の一部です。

判定の根拠が共有できなければ、現場で継続的に運用することは難しくなります。特に安全性が関わる分野では、判断の透明性が前提となります。

AIは、学習データに基づいて良品と不良品の傾向を捉え、類似度によって分類することができます。しかし、学習範囲を超える新しいサンプルに対して、その振る舞いを事前に完全に保証することは容易ではありません。

この特性は、検査装置としての信頼性設計において慎重な検討を必要とします。

また運用の観点では、判定基準をどこに設定するのか、どの程度の不良を許容するのかといった設計判断が不可欠です。さらに、発生頻度の低い不良や未知の不良については、十分な学習データを確保すること自体が課題となります。

4. 微小欠陥という問題設定

外観検査における不良は、多くの場合きわめて微小です。

500万画素の画像の中に、数十ピクセル、場合によっては数ピクセル程度の欠陥や、幅1〜2ピクセルの細い傷を検出する必要があります。これは、画像全体の中で極端に小さな変化を扱う問題です。

例えば顔認識では、画像の大部分が対象そのもので占められています。対象が明確に存在し、特徴量も大きい。

一方、外観検査では、ほとんどが正常領域であり、異常はごくわずかです。しかもその境界は曖昧な場合があります。

つまり、問題設定そのものが異なります。

大きな特徴を識別する問題と、広大な正常空間の中から微小な逸脱を検出する問題は、同じ「画像処理」であっても性質が大きく異なります。


この違いが、外観検査にAIを適用する際に慎重な設計を必要とする理由です。

5. AIの役割と今後の可能性

AIは、画像検査や外観検査に応用できそうに見える技術です。
しかし、その問題設定を十分に理解した設計がなければ、安定した実用化は容易ではありません。

私は長年AIに携わる中で、多くのAI導入プロジェクトを見てきました。そこでは期待が先行し、問題設定や前提条件の整理が不十分なまま導入が進み、十分な成果に至らなかった例も少なくありません。

一方で、AIが力を発揮する領域も確かに存在します。例えば、ピザやパンの焼き具合、衣服の裁縫状態のように、判断基準を明確な数値として定義しにくい分野では、AIは有効な補助手段となり得ます。

私はAIを否定する立場ではありません。むしろ、その進化には大きな期待を寄せています。

現在のAIは統計的最適化に基づく技術です。今後、計算技術や理論が進展すれば、より広い範囲での適用が可能になるでしょう。量子計算のような新しい計算基盤が成熟したとき、高次元空間における探索や最適化の在り方が変わる可能性もあります。

そのとき、外観検査の世界もまた、新しい段階に入るかもしれません。

6. OpenAA®におけるAIの位置づけ

OpenAA®においても、AI機能をコンポーネントとして提供します。

AIには得意な領域があります。文字認識や物体追跡のように、統計的分類が有効に働く分野では、AIは大きな力を発揮します。これらの技術は、今後も積極的に取り入れていきます。

重要なのは、AIを万能な解決手段として扱うことではありません。問題設定を理解したうえで、適切な場所に適切に配置することです。

OpenAA®は、AIを中心に据えるのではなく、多数あるコンポーネントの中の1つの解析手段としてAIを組み込みます。さらにLLMによってよりユーザーフレンドリーなシステムへ変貌させる計画をもっています。

AIは主役ではありません。

設計の上に配置されてこそ、本来の力を発揮します。

それが、私たちの立場です。


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